Inner Voice Vol.2 【前編】コンピュータとネットワークに生きてきたエンジニアが描く「モビリティ」の未来

2024.02.02
#voice

ソニー・ホンダモビリティの代表取締役 社長 兼COOを務める川西泉は、AFEELAの技術をリードする役割を担っている。
これまで、PlayStation®やXPERIA™などの開発に携わり、ソニーの「AIロボティクス」部門を経て、今までにないモビリティやサービスを創造する立場に至った。
AFEELAは「ソフトウエアとネットワークで進化するクルマ」となることを構想しているが、それがどんな未来をもたらすのか、外部の目線からはまだ分かりにくい部分があると思う方も多いだろう。すべてが明かすにはまだ時期尚早、という部分があるものの、やはり気になるのは事実。
ではどんなものになるのか。AFEELA誕生までの流れを追い、そのヒントを川西に直接聞いていきたい。
インタビューは、川西と取材を通じて20年来の関係を持つ、ITジャーナリストの西田宗千佳氏が担当した。

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  • 川西さんはこれまで、ソニーでPlayStationや「aibo」などを手掛けてこられました。ご自身のキャリアはどんなプロジェクトからスタートしたのでしょうか?
     ソニーに入社して最初に手掛けたのは、家庭用8ビットパソコンの「MSX」、ソニーでは「HiTBiT」というブランドで展開した製品です。実は学生時代、パソコン関係の出版社でアルバイトなどもしていたので、昔からそのようなことをやっていた、という部分があります。
  • 当時はパソコン(PC)関連は、ソニーでもかなり特別な部門だったでしょうね。
     家電業界全体で「コンピュータ」という存在がしっかりと確立されていなかった時代ですから、コンピュータ関連はなんでも「新規事業」的な扱いでしたね。
  • そして、1994年末にソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE、当時。現在はソニー・インタラクティブエンタテインメントに商号変更)からPlayStationが発売されます。川西さんもSCEに在籍した時代が長いですが、いつから参加を?
     私は初代PlayStation発売の翌年、SCEにジョインしました。PlayStationのゲーム機としての大きな転換点のひとつは、グラフィックスが3Dになったことです。当時はゲームセンターくらいにしかなかったですからね。これまでの経験も生かせるだろうと考え、希望を出して異動しました。
  • SCEではなにを?
     いろいろやりましたが、初代PlayStationではゲーム開発者向け開発サポートが主な業務でした。PlayStation® 2で、ゲーム機本体の開発にかかわるようになりました。当時はいわゆる「ブロードバンドネットワーク」が出始めたころで、まさにネットワーク黎明期です。当時はまだ可能性と限界の間で苦労していました。
     その後、PSPというポータブルゲーム機を担当し、WiFiによるネットワーク対応、本体ソフトウェアアップデート、コンテンツダウンロードなど、現在求められるIoTデバイスとしてのプラットフォーム的なシステムはほぼ実現しました。それと並行してPlayStation®3の開発も担当しで、CELLというマルチコアのプロセッサとNVIDIAのGPUで構成されるアーキテクチャを採用したゲーム機を開発することになります。
  • そう考えると、ずっとコンピュータとネットワークに関わってきたことになりますね。
     ネットワーク中心の考え方はPCから見れば当然ですし、PCから他の機器に展開していくのも王道的な考え方です。その流れの中でたまたま、「家電」という商品をずっと考えてきた、ということです。
     家電がネットワークで変わる、という要素は、当時は世の中にあまりなかったものです。いまほど理解も進んでいなかったですし、ネットワークの設定ひとつとってみても大変でした。そういった新しい技術をどうやって一般の人の中に溶け込ませるのか、そこに頭を使ってきたような気がします。
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  • その後、川西さんはスマートフォンの開発にも関わり、さらに、2018年にはaibo、2020年には、モビリティにおける安心・安全から、快適さやエンタテインメントなども追求する取り組みとして「VISION-S」を、2021年にはプロ向けドローンの「Airpeak」を発表します。
     2020年のCESで、ソニーは「モバイルからモビリティへ」というキーメッセージを出しました。
     スマートフォンの登場、すなわち「モバイル」は、人々のライフスタイルに大きな影響を与えました。電話機能とコンピュータの組み合わせがパラダイムシフトを起こしたわけですよね。では次に来るトレンドはなにかと考えた時に、「動くこと」、すなわちモビリティと考えたんです。
     要はメカで動くもの、インテリジェントに、コンピューティングパワーを使いながら動くものを、ということで、ロボティクスの世界に踏み込んでいきました。ここでの共通テーマは「自律」または自ら思考し自動的に動くもの、でした。
  • その中にaiboがいたのが少し面白いですね。
     もちろんいろんな議論はありましたよ(笑)
     やっぱりソニーにはロボット好きなエンジニアが多いんです。その中でもaiboは象徴的なものでしたし、ちょうどAIやロボティクス技術が注目され始めた時期でもあり、ぜひやろう、ということになりました。
     また、二足歩行、ヒューマノイドの形で進化させるという案も当然ありましたし、産業用ロボットをやる可能性もあったでしょう。一方、ソニーにはいろんな人がいて、その中で「ドローンをやりたい」という話も出てきました。
     そんなふうにいくつかの方向性が議論としてあった中で、並行して、ロボティクスの可能性のひとつとして、電気自動車つまりEVを作る……という案も出てきました。
     EVを構成する要素は電気的なものが多い。車両の制御もどんどんソフトウエアで行うようになってきました。
    「だとすれば、ソニーにできることがあるんじゃないか」
    そう結論し、EVの開発に取り組むことになったんです。

川西泉の経歴を紐解くところから始まり、ようやく「EV」の世界へと突入する必然のような流れが見えてきた。これまで、パーソナルコンピュータ、ゲームプラットフォーム、AIロボティクスのエンジニアとしての経験を積んできた川西がつくる「ネットワークとソフトウエアで変わる自動車」は、どのようなクルマになっていくのだろうか。

後編『社長 兼 COO 川西泉が考える「ソフトでかわるクルマ」とは?』につづく。

Writer : Munechika Nishida