Inner Voice Vol.1 「NEWTRAL(“新しいトライアル”と中立性)」 ― AFEELAのデザインが生まれるまで

2023.10.26
#voice
SHM 石井 大輔

石井 大輔 | Daisuke Ishii
デザイン&ブランド戦略部 ヘッド

1992年ソニー入社。ハンディカム、ウォークマン® 、AIBOなどのプロダクトデザインを担当。2度の英国赴任を経て、AIロボティクス、モビリティ、ドローンなどの新規領域や、R&D、コーポレートブランディング等幅広い領域のID・UI/UX・CDを含む統合的なクリエイティブディレクションを担う。2021年よりソニーグループ株式会社 クリエイティブセンター センター長に就任。2022年SHMデザイン&ブランド戦略部 ヘッドを兼務。2016/2021 iF Award 審査員(ドイツ)、2019/2022 DFA Award審査員(香港)、2023 グッドデザイン賞 審査員 (日本)、2022-24ミラノ工科大学客員教授。2023 東京大学 先端科学技術研究センター 社会連携研究部門 先端アートデザイン AAD アドバイザー。

10月28日(土)からのJAPAN MOBILITY SHOW 2023にて、遂に日本初となるAFEELA Prototypeの一般公開に先駆けて、10月17日(火)に、TOKYO NODEにて先行披露会「Meet AFEELA」が開催された。本記事は、そのMeet AFEELAでプレゼンテーションを行ったソニー・ホンダモビリティ(以下SHM) デザイン&ブランド戦略部 ヘッドの石井へのインタビューレポートとなる。ソニーグループで開発が進められたVISION-Sのデザインから指揮を取り、新たに発足したSHMの元、AFEELA Prototypeのデザインをリードしてきた石井が、プロジェクトの裏側や、そして今回初公開となったデザインコンセプト「NEWTRAL」が生まれるまでのストーリーを語る。

2つの異なる文化の会社が融合するとき、デザイナーが考えた言葉が組織を一つに束ねていった

ソニーとホンダ、2つの異なる会社からジョイントベンチャーが設立されたのは、2022年9月でした。2つの異なる企業文化を融合していくプロセスにおいて、これまでの2社にはなかった組織が立ち上げられました。それはデザイン&ブランド戦略部というチームです。敢えて、デザインとブランド戦略を統合することで、企業としての立ち位置から、デザインしようという試みでした。我々のデザインチームは、ホンダ出身とソニー出身のメンバーはちょうど50:50の構成になっています。エクステリア、インテリア、3Dモデリング、CMF、UI/UX、そしてコミュニケーションデザイン、空間デザインなど各分野のデザイナーが集まっています。スタイリングから、UI/UX、コミュニケーション、ブランド戦略を一気通貫した体制の元、すべてのクリエイティブを担当するのが我々の組織の特徴です。

最初に取り掛かったのが会社のパーパスの策定です。デザイナーが中心となって、全社員にインタビューを開始しました。そこから、キーワードを抽出し、マネジメント陣と議論を重ね、最後にまとまったのが、現在のパーパスである、「多様な知で革新を追求し、人を動かす」です。
ここに至るまで、様々な言葉を紡いでいくプロセスを踏み、キービジュアルと共にブランド戦略チームのアートディレクターがその想いをこの言葉にまとめました。最近では、言葉のデザインの仕事が増えて来ています。ソニーグループのパーパス策定への協力から始まり、ソニーモバイルのコーポレートビジョンの策定でも同様にデザイナーがトップマネジメントとのワークショップをリードし、言葉のデザインを行いました。こういったメソッドが、我々の中に蓄積されていたので、その経験が新しい会社を立ち上げの際にも活かされたということになります。文化の違う組織を一つに束ねるときの言葉のもつ力の重要性を感じています。

時を同じくして、開発コンセプトとブランドネームの検討へと進んでいきました。新会社のプロダクトやサービスをどういったビジョンで作っていくのかというキーコンセプトとさらにそのコンセプトを体現するブランドネームです。特にコアとなるモビリティのテクノロジーの理解に長けているメンバーが担当することで、開発のアプローチが見えてきました。議論を重ねて生まれたコンセプトが、3つの”A”から始まる、「AUTONOMY―進化する自律性」「AUGMENTATION―身体・時空間の拡張」「AFFINITY―人との協調、社会との共生」です。この”A”で「FEEL」という言葉を挟むと、「AFEELA」というブランド名になります。このネーミングに至るまで没案を含めて無数の案を出しましたが、モビリティと人の新しい関係性、センシングテクノロジーを介して、モビリティが人を感じる、人がモビリティを感じるという新たな相互関係を創っていくという意思をこめてこの言葉に決定致しました。

AFEELA Prototype 開発初期のディスカッション
AFEELA Prototype 開発初期のディスカッション

新領域へのトライアルの中で、異なるデザイン文化が調和され、化学反応を起こしていく… それがデザインコンセプト「NEWTRAL」

今回初公開となるのが、すべてのクリエイティブのベースとなるコンセプト「NEWTRAL」です。この言葉には”ニュートラル=中立・調和“という元々の単語の意味に、”新しいトライアル”という意味を加えています。”Neutralization”という言葉は、異なる物性が中和した状態のことを意味します。違った組織の文化が混ざり合い、化学反応が起き、中和され澄み切ったクリーンな世界の中で、あらゆる要素が調和した世界が広がっていく。そのイメージを我々は「NEWTRAL=新しい中立性」と称して、SHMが創り出すあらゆるデザインのコンセプトにしています。ソニーとホンダ、どちらも日本のメーカーなのですが、新たな融合によって生まれた、まるで地球上のどこの国のブランドかわからない、国や人種といった固有の価値や概念を超えたニュートラルな世界観を感じていただきたいですね。

我々が空間デザインのディレクションを担当したオフィスのインテリアデザインに関しても、その中立性は現れています。部門を跨いで多様な対話をするワンフロアのオフィススペースは中立性を保ちながら、デザインエリアはクリエーションに集中するためのブラックアウトしたゾーン、一方、ホワイトを基調としたゾーンは、活発なコミュニケーションを取るためのゾーンとして設定し、そこにナチュラルなウッドを取り入れています。二つの異なるゾーンを行き来することで新たな発想を生み出すための空間です。またメインのエントランスホールにはいわゆる受付カウンターはなく無人です。いい意味でヘリテージのない新しい会社の象徴として、過去にとらわれず新しい価値を生み出す、過去のモノにあふれた空間ではなく、一切無駄を排したクリーンで美しい空間になっています。

クリエイティブもテクノロジーも、幅広く巻き込んで行く共創プロジェクトへ

そのオフィスのデザインも当然、我々社内のデザイナーだけでなく、建築家の方と共創していくことでコンセプトが実現しました。それもあらたな化学反応の一つだと思っています。今後の開発はクリエイティブに限らず、テクノロジーの面でもいろんな人たちと共創していきたいと思っています。従来のモビリティの開発プロセスの中に関わってこなかった人たちを巻き込み、幅広く、接点を増やしていきたいと考えています。その中でも特に議論しているのが、バーチャルとリアルの融合についてです。ゲームとAR、VR、MRのような技術を使って、ゲームのドライビングがリアルに落とし込まれていく、またはリアルの世界が拡張して、ゲームと混ざり合っていくようなことが考えられます。データ上のバーチャルなものがリアルにどうオーバーラップしてくるのかは今後の開発テーマの一つです。この時「NEWTRAL」という考えは、共創関係の中で導き出された新たな体験のアイデアを描き込むためのキャンバスのような意味合いがあります。単にスタイリングの為のデザインコンセプトではなく、共創を促し加速するためのファウンデーションのような役割をもった、我々自身の役割を意識したコンセプトなのです。

AFEELA Prototype インテリア

AFEELA Prototype インテリア | ユーザーインターフェイスはウィジェット型で直感的な操作が可能。ストリーミングによる映画、そしてゲーム、各シートに取り付けられたスピーカーによって、360リアリティオーディオを楽しむことも可能。

バーチャルからリアルへ。3Dを駆使したデザインだからこそ、短期間でAFEELA Prototypeは形になった

プロトタイプの開発にあたってもバーチャルとリアルの融合は開発の鍵でした。従来のカースタイリングでは2Dのスケッチを大量に描くことからすべてが始まるのに対し、今回は積極的に開発の冒頭から3Dデータでのデザイン検証を初めています。データ上でリアルな寸法に基づいたリアルなパースのレンダリングを用いてデザイン検証することで、パッケージングや様々なテクニカル面での条件にも忠実に開発が進められます。またサーフェースの完成度を冒頭から上げることで、結果的に開発期間がものすごく短くなりました。当然、コスト面でもスケジュールでも無駄がなくなります。3Dデータで進められたデザインデータで、リアルなモデルを作成し、実物大で検証を行い、リアルとバーチャルを行き来することで、デザインの検証期間は一気に短縮されます。この短期間でプロトタイプを発表するまでもっていくことができたのは、このやり方だったからこそです。

AFEELA Prototype エクステリア

AFEELA Prototype エクステリア | ブラックアウトされたキャビンとそれを包み込むようなボディ。無駄のないスリークなデザインはドライバーや乗客がセンシングテクノロジーによって守られている様を象徴している。プロポーションはジオメトリックなルーフラインと水平基調のボディラインが特徴的。シャープな足回りは次世代のEVプラットフォームを予感させる。

車自体が呼吸し、生きているようなロボティクスデザインになっている

ソニーとホンダは異なるデザイン文化を持っていますが、共通しているところも多くあります。日本のインダストリアルデザインの黎明期から支えてきた両社は、歴史的にも近いところにいました。無駄を極限までそぎ落とすことでたどり着いたポータブルミュージックプレーヤーのウォークマンや、シンプルな2BOXカーの原型を生み出したCIVICなどには共通するプロダクトの思想を感じます。また、AFFELAのスタイリングの開発にあたって意識したのは、ロボティクスのデザインです。ソニーにはaiboがあって、ホンダにはASIMOがあった。こういったロボティクスのデザインをモビリティのデザインに取り込んでいったのは、ソニーとホンダのチームならではだと考えています。硬質なサーフェースとジオメトリックなラウンドフォルムはロボティクスのデザインアプローチを意識したものですし、UXには、人と共生する「生命感」を宿していきたいと考えていました。その中で出てきたのが、人を感知してドアをあけるキーレスエントリーだったり、フロントのMedia Barの呼吸しているようなライティングの表現だったり、センサーと連動するパーソナルレコグニションだったりします。

そういったUXには名前にも込めた、そのモビリティが人を認知して、感じてくれること、モビリティが人にアダプトしてくれるような世界を考えています。AFEELA Prototypeには45個のカメラ・センサー*があります。そのセンシングしたデータを使って、人とモビリティの理想っていうのを追求していくための仕組み作りが必要になっていく。走行中においてもドライバーを認識することで、パーソナライズされた様々なセッティングを適用することも可能になるし、それによってコンテンツ自体も変わるはずです。車室内のフロントエリア両端まで横一線に広がるパノラミックスクリーンはPrototypeの特徴の一つで、水平基調のデザインにより、ドライバーは目線を左右に動かすミニマルな動作ですべての情報を見ることができます。スクリーン上のホーム画面もその人それぞれの使い方によって、モビリティ側が変化していいですし、ナビに関しても、いつも同じようなところを通っているときは、地図を出す必要はないでしょう。ちょっと落ち着きたいときには、余計な情報をなくして、アンビエントな照明と連動したスクリーンセーバーの表示をすることもできる。このような、パーソナライズの為のコンテンツ制作は我々だけでは到底でき得ません。フロントのMedia Barにもパーソナライズされたブランドネームやモーションロゴが表示されてもいい。AFEELAはまだ“Prototype”であり、こういった体験の変化に、外部のクリエイターさん、デベロッパーさんが参加して、新しいコンテンツを一緒に考えていく「共創」の余地があるのではないかと思っています。

*2023年10月時点の設計仕様では、45個のカメラ・センサーを装備

そういったパーソナルな体験だけではなく、その先の本質的なこと、その車の使い方、使われ方みたいなところを一緒に考えていきたいと思っています。もっと言うと、プロダクトとしてのエコシステムを一緒に作っていきたいです。例えば、電気自動車とガソリン車の決定的な違いは、止まっているときの価値ですよね。エンジンをかけずに室内でエンターテイメントを楽しむこともできるし、もう一つの居住スペース、もう一つのリビングルームみたいな使われ方もされるでしょう。家庭における電気自体の使い方も変わってくるかもしれないし、それによってモビリティの価値も変わってくる。家で止まっているだけじゃなくて、車を止めて楽しむためだけの場所や、新しいテーマパークみたいなアイデアも考えられそうですよね。その空間の体験価値をどう高めていけるのかを、外部の様々な業界のスペシャリストや、パートナーを探しながら、一緒に考えていけると楽しいですよね。

Co-Create community

イノベーションプログラム | 車両のセンサーやカメラなどから得たデータを活用し、クラウドを介してサービスを提供できるアプリケーション。エンターテイメントから生活に役立つものまで、ユーザーの個性に呼応するモビリティを目指す。

今まで車に興味がなかった人にも見てほしい。JAPAN MOBILITY SHOW 2023の展示はテック企業ならではのアプローチ。

そういう風に考えると、もっと車の未来って変わっていくかもしれない、新しい価値が生まれるかもしれない、そう感じてもらえれば嬉しいですね。今までクルマに興味がなかった人もこういう世界が広がっていくことの可能性を一緒に考えられたらと思っています。そういう意味でJAPAN MOBILITY SHOW 2023に出展する意味があると思っています。

テックに興味がある人たちで、むしろクルマになんか全然興味がなかったけど、ソニーとホンダがつくるんだったら、という視点で見てもらえるといいですね。今回のJAPAN MOBILITY SHOW 2023でのSHMの展示は、まるでバーチャルな空間の中にリアルなプロダクトが置かれているような演出になっています。これも我々の空間デザインチームが担当していますが、今までのモーターショーには絶対にないようなテック企業からのアプローチならではの見せ方になっているので、楽しみにしていただければと思います。

 

-編集後記-
AFEELA Prototypeのデザインをリードしてきた石井本人が振り返る開発ストーリーは、「NEWTRAL=新しい中立性」そして”新しいトライアル”、という言葉そのものであった。ただし、その新しいトライアルはまだ終わっていないし、あらたな歴史は始まったばかりだ。共創プロジェクトにおいてはここからがスタートとも言える。様々クリエイターやデベロッパー、スタートアップと協力し、ユーザーも巻き込んで、新しいモビリティの体験を考えていく。「NEWTRAL」は、常に進化し、未来に向かって行く姿勢を示す言葉でもある。

インタビューの中で度々登場した言葉が、「一緒に考えていきたい。」だった。石井は、目的地に着くのがもったいない、と思えるような新しいモビリティ体験を開発していきたいと語る。そのために、将来のユーザーとなる皆さんからのフィードバックもこれから沢山聞かせてほしい。JAPAN MOBILITY SHOW 2023に、是非足を運んでいただき、実物を見て未来への可能性を感じ、一緒にAFEELA Prototypeを、そしてモビリティのこれからの体験を考えていってほしい。

JAPAN MOBILITY SHOW 2023は10月28日から一般公開。
本記事で綴ったAFEELA Prototypeのリアルの姿を是非とも確認いただきたい。
https://www.shm-afeela.com/ja/jms/2023/